飛行航跡5 Centre of Gravity Track (CGT)
スナップ・ロール/実機の場合_に動画リンク追加(2024.2.1)
●フレームアウトに対する減点
演技の全長は直前の水平飛行部分も含まれ、フレームラインから出た割合に比例して減点されます。
例えば、図のハンプティ・バンプでは、演技の50%が出ているので、フレームアウト分として5点の減点となります。
また同時に、
「150m標柱付近の飛行経路で生じた違反は、それより遠方で行われた違反より減点を少なめにすべきである」
ともあります。
要するに、近めのコースでのフレームアウトはわずかな失敗の結果だけれど、遠いコースでのフレームアウトは失敗の割合も大きいですよ、という事です。
また、遠ければ視認性も悪くなるので、その点からも減点の対象になります。
●ハーフ・リバース・キューバン8
離陸後、演技開始前の180°ターンに利用する場合も多いと思いますが、演技となるとただの方向転換では無いので、細かな注意が必要になってきます。
・理想の大きさ
青ラインは、中央で行うキューバン8と同じ大きさで描いたものです。
でも、これではセンターよりも手前から演技を開始しなければならないので、絶対にあり得ない大きさです。
中央演技を終わってから開始する訳ですから、結局のところ、必然的に図の緑の大きさになってしまう事が判ります。
・開始位置
エレベーターを引き始める位置は図の矢印↑位置です。
センターから1/3のところで開始しなければなりません。
普段飛ばしているのと同じですか?
普通はもっとのびのびやっている感じがしませんか?
とすれば、それは、下図のオレンジや紫のラインになっているからかもしれません。
・オレンジの場合
理想の緑↑より開始位置が遅く、ちょっと大きめの演技です。
45°やRは正確ですが、2割フレームオーバーしています。
従って、2点の減点。
もしも「この大きさでもフレームに収まるよ」と言うなら、それは遠いコースを飛んでいるからで、結局それは上にも書いた様に遠方飛行による減点の可能性があります。
・紫の場合
「フレームに収まっているから良いだろう」と、思っていたらとんでもありません。
60°以上の立ち上げで、Rが不揃いでしかも途中で変化しています。
それに抜けの水平ラインがハッキリしないとなれば、
これだけでも減点は、2+1+1+1=5点になります。
実際はこれに、位置取りや方向のズレ、ロールについての評価も加わるので、単純に減点していったら相当低い点数となってしまいます。
●45°の見え方
パイロットから見ると引き起こしの45°の判断は非常に難く、ちょっと気を抜くと60°以上になってしまいます。
「見てナンボ」「見られてナンボ」の世界ではありますが、見る人によって「私はこれくらいが45°に見える」と言うのでは困ってしまいます。
45°というルールがある以上、正解はひとつしかないのですから、その45°がどの様に見えるかを追求して行くのが公正な競技にとっては大切な事と思います。
●採点
あまりに誤差や誤解が多い様だと、GPSやカメラなどの機材を使って採点すれば、という考えも出て来るかも知れません。
ただ、正確性についてはそれでも良いかもしれませんが、カラオケ採点マシーンの様になってしまうと、プログラム範囲以外の事や、芸術性をどう判断するかなど、問題も出て来るでしょうから、それも程々にと言った所でしょう。
上手な点数の付け方は、0点から10点までを有効に使う事なので、演技が完了している以上、減点が重なったからといって0点にするのもおかしな事になります。
その辺については、私も20年以上審査員講習会に参加していますが、特にどうこうしろと言う明確な説明は無かったと思います。
要は、どう判断するかは各審査員の裁量次第であり、基準を設けたら競技中はその基準を変えない事が大切なのです。
競技と言うものは1位を選び出すのが目的ですから、その中で大幅減点の演技をする様では、遅かれ早かれふるい落とされるという事なんですね。
●実機曲技飛行の審査
採点競技と言う点では、模型も実機も人間がやっている以上同じ様な事があります。
次に紹介するブログには 、本人も実機曲技飛行のパイロットではあるんですが、その方が審査員をされた競技会で、選手からクレームがついた時の事が書いてあります。
こういう競技をやる事の難しさ、公平さなど、色々と考えさせられるものがあるので、是非読んでみてください。
●フライト動画
上記ブログの中に、「高めの点数をつけてしまう」とありますが、気持ちは良く分かります。
私も、F3A審査員講習会の実地講習で、実際に採点をして点数合わせをした事がありますが、自信の無い所は減点しないのでどうしても甘い点数となってしまいます。
もちろん、人間の見た目での判断なので差が出る事はありますが、そういうバラつきがあるからこそ複数の審査員が必要とも言えます。
その点、正確さだけを見るなら搭載カメラです。
例えばこの動画
Japan National Intermediate Unknown
ピッチ方向については、「直線とRのけじめ」がしっかりしていて、実機ならではの重量感や安定感もあります。
RC機でここまで自信を持ってエレベーターコントロール出来る事はまず無いでしょう。
また、動画中にはロール演技は少ないですが、演技開始合図以外の、例えば、終わり際にある4ポイントロールについて、精度や止めがどうであったかなどは、じっくり見る事も出来ます。
●クロソイド曲線
クルマでカーブを曲がる時は、急激にハンドルを切って一気にタイヤの向きを変える様な事はしません。
乗っている人や車体に加わるショックを和らげる為に、直線から円弧に移る時には緩和部分を設けています。
インターチェンジの画像を見れば、その様子が良く分かります。
その、カーブの入り際や出際の「ハンドルを回しながら曲率半径を変化させて進んだときの軌跡」が「クロソイド曲線」です。
クロソイド曲線区間の長さは、スピードやカーブによって異なりますが、
例えば、クルマが90°方向転換する時の軌跡を描いてみると、図のオレンジの様になります。

この時のハンドル操作としては、
1. A点からB点までは前輪舵角を継ぎ足して行き(クロソイド区間)
2. B~C間はハンドルを固定 (単曲線区間)
3. C点でハンドルを戻し始め、D点でニュートラル (クロソイド区間)
と、なっています。
ADを一定の半径で結んだのが黒いラインですが、
それに対してオレンジのラインは、入り口と出口のRが大きく、中程のRは小さくなっています。
●パターン競技とクロソイド曲線
クルマがカーブを曲がる時は安全上や乗り心地の面からも、必ずクロソイド区間が存在します。
これは飛行機も同じで、機体の慣性や舵の動作スピードなどで量が異なるにしても、必ずクロソイド区間は発生するものです。
一方、パターン競技のルールでは、上記A点とD点の間は一定のRを持った黒のラインでなければなりません。
オレンジの様にRに変化があった所は減点の対象になってきます。
例えば、上記のインターチェンジ画像の様なフライトだったらどうでしょう。
ちょうどP-13パターンのクローバー・リーフの演技にも見えるので、左下から垂直上昇したとしてみます。
すると、
・円と直線のけじめが無いので、どこが直線で、どこから円になったのか判らない
・円の途中でRが変化している
・中央の水平ロールの前後にあるべき直線がハッキリしないし、曲がっている
等、色々と減点項目が見えてきます。
一応演技が完了していれば0点にはならないでしょうが、相当低い点数になる事が予想出来ます。
それに、点数がどうこう言う前に、
「どの場所でどの様な大きさの図形を描きたい」という意志が伝わって来ない、アピール度に欠けるメリハリの無いフライトと言う印象を与えてしまうのです。
●スナップ・ロール/実機の場合
スナップ・ロールは曲技飛行の基本科目の1つですが、極短時間で終わってしまうため、見ている者にとっては非常に判断が難しい演技です。
実機の方でも微妙な部分がある様なので、まずは実機の様子を見てみる事にします。
はじめに、こちらの資料をご覧ください。
この5ページ辺りの、スナップ・ロール関連の部分です。
ここには「航空力学的なスナップロール」と「競技飛行を目標としたスナップロール」についての記述があります。
要約すると、競技では迎角変化やラダーの尻振りによるスナップ・ロールらしい動き(フェイクスナップ)があれば、それでも得点は可能、という事です。
ただ、機体の特性による反応の違いやジャッジの見方などグレーゾーンもあるので、詳しい事は良く読んで確認してみてください。
続いて、以前紹介した事がある動画です。
Japan National Intermediate Unknown
この中の、0:20でスナップ・ロールを行っています。
この動画を、再生スピードを落としたり、ストップと再生を繰り返して見てみると、急激なエレベー ター・アップと、それに続いて回転運動が始まっている事が分かります。
実機のスナップ・ロールの判定基準は、
1.機首がフライトパスから指定された方向(ポジティブかネガティブか)へ移動すること。
2.ヨーイングによって片側主翼が失速し、オートローテションが行われていること。
の2つだそうですが、翼が失速しているかどうかは不明として、機体の動きとしてはその様になっている事が分かります。
また、一連の舵の動きを見てみると、
・急激なアップと、引き続いてのラダー
・回転開始後、エレベーターだけはニュートラル
・回転を停止するかなり前から逆ラダー
といった操作をしている事も分かります。
私は実機の事は分からないので想像も含んだ話になりますが、この様な、
・瞬間的なエレベーター入力で飛行ラインを変えずに姿勢変化だけを起こし
・一旦回転運動が始まれば、それを止める為にまたそれなりの操作を必要とする
という操縦方法は、慣性力の大きい実機だからこそのものだと思うのです。
高木雄一さんとスナップロール対談(2024.2.1追加)
●模型の場合
一方、模型の方としては、「F3A R/Cエアロバティック模型飛行機 飛行演技ガイド」で、「スナップ・ロール」について次の様に記述されています。
ーー引用ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スナップ・ロールという飛行演技は、模型が失速姿勢を維持し、大迎角を維持した状態で急速な自転状態に入るロールを言う。
スナップ・ロールにおける審査は、ロールにおける審査と同様に、一定の経路で演技、回転の開始および終了、また回転方向を適用する。
スナップ・ロールの開始は、模型が自転を開始する前に、胴体の姿勢と飛行経路とが明確に分離、失速状態になった事を示さなければならない。
スナップ・ロール演技中は失速状態を維持しなければならない。
もしこの失速/分離が起こらずにバレル・ロールの状態で回った場合、厳しく減点する(5点以上の減点)。
同じ様にスナップ・ロールに見せかけた軸ロールの場合、厳しく減点する(5点以上の減点)。
スナップ・ロールは、ポジティブ(機首上げ)、およびネガティブ(機首下げ)で実施する事ができる。
スナップ・ロールの演技方向(ポジティブまたはネガティブ)はパイロットの自由裁量である。
もし模型がスナップ・ロールを演技中、失速状態から失速していない状態へ戻った場合は、15度/1点ルールで減点する。
ーー引用終わりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
競技としては、この様なルールがある以上、これに従ってフライトし、採点しなければなりません。
審査員講習会でも、これらについての説明があるだけです。
私の知る限りでは以上の様になっていますが、スナップロールは独特の運動であり、機体の差などもあるので、私なりの解釈を付け足してみます。
まず、「胴体の姿勢と飛行経路とが明確に分離、失速状態になった事を示さなければならない」と、あります。
実機と同様に、一旦ブレイク状態を示した後、ローテーション開始です。
この様な「満点のスナップ・ロール」は、機体を後ろから見たとすると、テール部分が「の」の字を描く事になります。
でも実際の所、模型飛行機でこの様なブレイク状態を示すのは至難の業ではないでしょうか。
大型スケール曲技機とかフルサイズパターン機なら可能なのかもしれませんが…。
小回りが利く小さくて軽い機体は、エレベーターを入れ始めると同時に進行方向も変化してしまいます。
ブレイク状態を示す時間などありません。
満点演技は元々ムリな話です。
まぁ、小さい機体で選手権に出る人はいないので、小型機の事などどうでも良い話かも知れませんね。
一方、ブレイクが無くて「バレル・ロール」や「軸ロール」だった場合は、5点以上の減点となっています。
即、0点では無いんですね。
飛行ラインが螺旋状を描いたり、回転軸が飛行ラインに近くても、回転さえしていればある程度の点数が付く可能性を示しています。
なら、「バレル・ロール」や「軸ロール」じゃない…、つまり、スナップらしい動きならどうなんでしょう?
ブレイクが無いと言う時点で5点以上の減点なのか?
それとも、「バレル・ロール」や「軸ロール」では無いので、5点以上の大幅減点をする必要は無いのか?
ちょっと悩む所です。
失速状態は機体毎に異なります。
それを瞬時に判断するのは容易な事ではありません。
スナップ・ロールの回転運動は、「回転軸が歳差運動(さいさうんどう)の様な動きをする素早いロール」です。
演技でそれを表現出来ればある程度の得点は可能、と言う事なのかもしれません。
この辺は、実機の解説にもあった「フェイク・スナップ」に近いものがあるのでしょう。
軸ロールに近い方が制御が簡単になります。
だからと言って、スナップ・ロールの条件に「失速姿勢」とか「大迎角」とかある以上、テールの振れが少なければスナップと見なされない場合も出て来るでしょう。
●関連サイト
Don Ramsey's Pattern Page Building/Flying/Engine Techniquesのページに、スナップやスピンの記述あり。
●大型スケール・アクロ機のスナップ・ロール
ブレイクを示してからのローテーションが厳しく求められています。
●失速
スナップ・ロールの説明の中に度々「失速」と言う言葉が出て来ます。
「失速」と言うと、漢字のイメージから何となく着陸やスピンなどスピードの遅い時を思い浮かべてしまうかもしれませんが、その本来の定義は、主翼から気流が剥がれしまう事です。
剥離は、スピードに関わらず、迎え角が大きければ起こります。
気流が剥がれ易い機体は、通常旋回でも何となくエレベーター操作に不安感があるもので、特にトライアングルの底辺に入れる135度コーナーなどではコロッといってしまうこともあります。
因に、ここでの失速は、自重による慣性力が大きくなっている所での迎角増大ですから、正にスナップ・ロールの入りのブレイクにピッタリの条件になっています。
スティックを操っているパイロットは色々な情報から機体の状況を知ることが出来ますが、外野としては機体の動きだけで気流の剥離状態を判断するしかありません。
通常、空気の流れなど見えませんから、かなり難しい事です。
まして機体毎に剥離の状況は違うし、部分的な剥離などと言ったら、まず分からないでしょう。
通常飛行では失速を避けたいのに、スナップ・ロールでは速やかに気流に剥がれて欲しいのですから、嫌らしい演技種目があるものです。
安心して飛ばせる機体とは逆の性能なので、一機でその両方を求めるのはムリな話です。
まぁ、両立の秘策が無い訳では無いですが、瞬間芸の為だけにそんな事をしても…、と思っている所です。
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